東京高等裁判所 昭和28年(う)233号 判決 1953年4月01日
控訴人 被告人 徳山こと洪瑞昊
弁護人 河田広
検察官 横川陽五郎
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人河田広作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し次のとおり判断する。
論旨第一点
本件記録によれば、原審第一回公判廷において原審検察官が本件については口頭の告発があり、後日収税官吏からその旨の書面が送付されることになつている旨陳述していて、本件起訴事実は昭和二七年九月五日附収税官吏高橋重直作成名義の告発書記載の事実とは別個のものであるが如き旨陳述していることは所論のとおりであるが、同第二回公判調書の記載によれば原審検察官はこれを訂正し本件起訴事実は右告発書記載の事実中に包含されているのである旨陳述しているのであるところ、本件右告発書記載の事実中には被告人は村上某と共同して昭和二七年七月初旬から同年九月四日迄酒税法第一二条該当の雑酒三級を密造し、これを売子を使つて川口市内の飲食店に販売していた旨の事実が記載されている。一方本件起訴事実は被告人は昭和二七年八月二九日頃肩書自宅において竹本光太郎に対し政府の免許を受けない者が製造した焼酎二斗を三千五百円で売却したものであるという事実の外被告人は昭和二七年八月二九日頃肩書自宅において竹本光太郎より密造焼酎二斗の購入方の依頼を受け代金三千五百円を受取り即日之を同所附近において村上某に渡してその旨を伝えもつて村上某が竹本光太郎に対し政府の免許を受けないで製造した焼酎二斗の譲渡行為を容易にしてこれを幇助したものである旨の予備的訴因が追加されているのであるが、原判決挙示の証拠である竹本光太郎の原審公判供述及び中村好身の検察官に対する供述調書の記載によれば、竹本光太郎は村上某から譲受けた焼酎二斗を川口市内の飲食店に売却している事実を認めることができるのである。而して告発は具体的犯罪事実につき犯人の処罰を求める旨の意思表示ではあるが、起訴状のように厳密に犯罪構成要件該当の事実を示す必要はないもので酒税法違反の場合は要するに同法所定の如何なる態様の犯則であるかが判明すれば足りるものと解せられるから、右告発事実中の被告人が村上某と共同して密造雑酒を人を使つて川口市内の飲食店に販売していたという事実中には当然本件右起訴事実はこれを包含するものと解するのを相当とする。従つて本件起訴事実は所論のように告発のないものとは認められず、原判決には所論のような違法の存するものではない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 稲田馨 判事 石井文治 判事 古田富彦)
控訴趣意
第一、本件被告事件は親告罪であつて収税官吏の告発を待つて起訴すべきであるに拘らず検察官は告発なしに起訴をなしたものであるから当然公訴棄却さるべきものであるにこれに実体的判決をした原判決は違法であるから破棄されねばならない。
一、本件被告事件が親告罪であることは国税犯則取締法の規定に徴して明白であつて、原審裁判所は川口税務署収税官吏大蔵事務官高橋重直作成名義の告発書に「被告人は売子を使つて川口市内の飲食店に密造雑酒三級を販売していた」旨の記載があるから本件被告事件に告発ありとの判断を示しているが、右の告発は雑酒三級の密造の事実についての告発であつて、たまたま事情として販売云々が記載されているに過ぎないので、原判決のいうように被告人が竹本光太郎に村上より雑酒三級の販売を幇助した事実についての告発ではない。このことは捜査のしようにあたつた外山検察官が第一回公判期日において、本件の告発については税務官庁より被告人が酒を密造して所持している事実については既に告発があり(これが前示の告発状による告発を指すもの)本件についても起訴した九月二十四日に口頭で告発があり後日その旨を書面にして送付することになつているので未だ到着していない又告発書がくることになつていたので口頭による告発に際して調書を作成しない」と陳述しているのに徴しても本件被告事件については告発がないものといわなければならない。然るに偶々前示摘示の通り告発状に販売云々の記載のあることをよいことに告発ありとするが如きは余りにも恣意的な解釈だと云わなければならない。
二、仮りに右の告発状が販売の点を含むとしても、その記載によつても明かなように「被告人が売子を使つて川口市内の飲食店に密造雑酒三級を販売した」というので、原審裁判所が罪となるべき事実として認定したものとその同一性が認められないので結局本件被告事件については適式な告発がないものとして公訴棄却せられねばならないのに、このことに出でないで実体判決をしたのは違法であるから当然破棄されなければならない。
(その他の控訴趣意は省略する。)